| 平成23年度 税制改正に関する提言 |
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平成23年度 税制改正に関する提言
総 論
第一 経済・財政・社会保障制度の改革
政府は、本年6月、元気な日本を復活させるとして、強い経済、強い財政、強い社会保障を一体的に捉えて立て直す方針を示した。この政策を要約すると、増税で得た財政資金を社会保障などの成長分野に投入することで、雇用を拡大し、成長につなげようとする戦略である。だが実際は、正に「言うは易く、行うは難し」の典型といってもよいだろう。
現在の日本経済は脆弱化し、需給ギャップが25兆円ある。名目雇用者報酬も減り続けている。いわゆるデフレ状態の中にある。政府は増税しても成長はできると言うが、その根拠は不明である。 一方、向こう3年間の予算の大枠を示す財政運営戦略の新目標は、①国、地方を合わせた基礎的財政収支赤字を対国内総生産(GDP)比で2015年度までに半減し、20年度までに黒字化する、②債務残高対GDP比を21年度から引き下げるという2本柱を据えている。しかし、同時に示された試算では、20年度の赤字は21.7兆円で、本年度赤字30.8兆円の半減にもならない。財政収支を黒字化しないと、肝心な債務残高が低下しない。そのための手段は増税による歳入増か歳出削減しかない。やはり、抜本的な歳出・歳入の一体改革を行い、国民負担率を増やさない小さな政府を目指すべきである。 これと同時に、どのような社会保障制度をつくり、どこにどう投資するか等の制度設計を行い、財源としての消費税増税について国民に分かりやすく説明すべきである。
第二 行財政改革の推進
政府は国の予算制度、その他行政全般のあり方を刷新するため、内閣府に行政刷新会議を設置した。行政刷新会議は、事業仕分けというこれまで見られなかった新しい手法で、行政の無駄の洗い出しを行い、注目を集めた。期待されていた予算や事業の無駄の見直しという行財政改革の観点では一定の成果を得られたが、財政確保の点では、第一弾の事業仕分けで3兆円以上の歳出削減を目標としたものの、削減額は7,000億円程度にとどまり、課題を残した。 政府が直営する事業は、非営利・独占事業であるが故に効率的な運用に欠ける面が多い。これを民間開放という鏡に照らしてみる市場化テスト等を行い、効率化を検証してみる必要がある。政府の行財政改革は、民間のリストラに比べてまだ不十分である。特別会計の改革をはじめとして、目に見える形での成果を期待したい。
同様に、公務員改革についてもまだ道半ばである。制度の根幹に斬り込むような改革を期
待したい。国会議員の定数削減も急務である。 地方自治体についても、広域自治体や道州制の導入等、さらに徹底した行財政改革を行うよう求める。
第三 国・地方のあり方
わが国の中央集権システムは、国・地方の経済発展に大きく貢献してきたが、最近ではそのシステムの生み出す非効率化の方が目立ってきた。現在の政権は、基本理念として地域主権を主張し、国・地方の関係を「上下、主従の関係から対等、協力の関係へ」と謳っている。 当面は、規制・予算・法律関連などを見直すとしているが、我々国民が求めているのは、国・地方の役割分担の明確化および行政効率化に伴う歳出削減等の実効ある政策であり、これらの問題に真剣に取り組むべきである。 また、地域主権戦略会議では基
礎自治体(人口30万人程度)を重視しているが、広域行政による効率化の観点から、道州制について充分に議論すべきである。 分権型システムの確立のためには、地方のリストラに加えて、国から地方への補助金の削減、地方交付税改革、税源移譲のいわゆる三位一体改革の流れを止めてはならない。現政権は国から地方へのひもつき補助金の廃止、地方が自由に使える一括交付金の交付を謳っているが、地方交付税交付金や補助金の見直しは急務である。
第四 税制改革のあり方
税制改革にあたっては、公平・中立・簡素という課税原則のほか、国際間の経済取引の増大や多様化、諸外国の租税政策等の国際的整合性をも踏まえつつ、今後の税のあり方に踏み込んだ抜本的な改革を行う必要がある。 中小企業は、わが国経済の礎であり、また、
地域経済の担い手である。その中小企業が時代や環境の変化、特に国際化の流れの中で、その存在を確保し、社会経済への貢献を続けることができるような税制の確立が求められる。こうした観点から、かねてからの懸案である法人税率の引き下げ(軽減税率の更なる引き下げ、恒久化を含む)と事業承継税制の確立を最重要課題として提示する。また、社会保障を支える意味から、今後、消費税の役割を強化する必要がある。
第五 租税教育の充実
税は国・地方が提供する公共サービスの財源である。したがって、税がなければ国や地方の各種サービスは機能しない。国民の納税義務は憲法でも定められている。21世紀の納税者は「税をキチンと支払い、その使い方を監視する人」にならなければならない。今後の行財政改革の推進にあたっては、国や地方が国民に対して実施状況を公表するなど納税者とともに進めていくことが求められる。そのための監査機能の充実も大切になる。
そこで、学校教育はもとより社会全体で租税教育に取り組み、税の役割を正しく理解して、真の納税者(タックス・ペイヤ―)意識を定着させる必要がある。 これからの税制改正は、納める側が納得した上での推進が必須の条件となる。その意味からも租税教育の充実は重要である。
各 論 基本事項
第一 法人税制について
1. 法人税の税率の引き下げ
わが国の法人税の実効税率はアメリカ並みの40.69%となっている。しかし最近、自国企業の国際競争力強化あるいは外国資本の誘致等の目的から、税制を優遇している国が多い。現実に、近年、欧州・アジア諸国で法人税率の引き下げが行われている。特にイギリス、ドイツ、中国等では実効税率が20%台にまで引き下げられている。 日本企業の国際競争力強化や国内産業の空洞化防止、さらには外国資本の国内への投資促進の観点から、法人税の基本税率について地方税を含め、大幅な引き下げが必要である。その際、租税特別措置の整理・合理化等で課税ベースを広げ、地方税を含めて、少なくとも欧州・アジア主要国並みの30%以下の実効税率とするよう求める。
2.中小企業軽減税率の引き下げ等
平成21年度税制改正で、中小企業等に適用される法人税の軽減税率が2年間の特別措置として22%から18%に引き下げられた。しかし、現在の厳しい経営環境や中小企業の担税力を考えると、中小企業に適用される軽減税率は2年間の時限措置ではなく恒久化するとともに、さらに一層の税率引き下げが必要である。また、昭和56年以来、課税所得800万円以下に据え置かれている軽減税率の適用課税所得金額を少なくとも1,600万円程度へ引き上げるよう求める。
3. 交際費課税制度
平成18年度税制改正で、一人当たり5,000円以下の飲食費については交際費から除外された。また、資本金1億円以下の中小企業に認められる特例も引き続き存続している。交際費課税における創設当時(昭和29年)の資本蓄積を図るという政策目標は消失しており、改めて経済取引の実体の中にそのあり方を位置付けることが必要と考える。
2009年の追加経済対策で、中小企業に対する交際費の定額控除限度額が400万円から600万円に引き上げられたが、不十分であり、定額控除限度額の更なる引き上げ、損金不算入割合の撤廃、資本金の規模制限の弾力化等の改善を求める。
4.役員給与
最近、会社法改正、企業会計の変更等に伴い、税制面でも役員給与の取扱いが大幅に変わり、定期同額給与、事前確定届出給与、利益連動給与以外は損金不算入とする改正が行われた。しかし、利益連動給与について、同族会社は適用対象外となっている。経営意欲、企業活力を発揮させるため、同族会社についても一定の要件の下で、同様の措置を認めるべきである。
5.同族会社の留保金課税
平成19年度税制改正で、中小企業における同族会社の留保金課税は実質的に撤廃された。しかし、特定同族会社に対する留保金課税は存続しており、引き続き廃止を求める。
6.電子申告
国税庁が2004年から運用を開始した国税電子申告(e-Tax)は、2010年3月末現在の利用率が45.4%に達した。平成21年度税制改正では、所得税額控除制度の2年延長、所得税の確定申告時に税務署への提出を省略できる書類の拡充などの措置がとられた。さらに一層の利用促進を図るため、地方税の電子申告との一体化の検討、法人・個人に対する恒久的な税額控除制度の創設など利用促進に向けての努力が必要である。
7.その他
租税特別措置に関連して、政府は「租税透明化法」を国会で成立させた。 租税特別措置のうち、政策税制措置を4年間かけて抜本的に見直す方針である。租税特別措置については、政策目的を果たしたものは廃止し、それを法人税率引き下げの財源に充当す
べきである。ただし、中小企業の投資促進税制など経済活性化に寄与する措置は本則化
(恒久化を含む)あるいは新設すべきである。
また、配当に対する二重課税については、現行の配当控除制度では不十分であり、欧州各国の制度(インピュテーション方式)を参考に二重課税の排除を求める。
第二 個人所得税制について
1. 所得税と住民税のあり方
所得税については、就業形態の多様化など経済社会の変化に伴い非納税者が増えている。基幹税としての所得税の機能を回復させるため、税負担の歪みを直し、広く、薄く負担を求めるべきである。また、住民税は応益性の観点から均等割の更なる引き上げを求める。
一方、税制改正において、所得税の最高税率引き上げが検討されているが、仮に最高税率を引き上げても税収効果は小さく、象徴的な意味しか持たない。逆に労働意欲を損ね、
マイナス効果を及ぼす可能性がある。
2. 各種控除制度の整理・合理化
所得税および住民税の諸控除については、負担の公平化、税制の簡素化、少子高齢化、雇用慣行の変化、ライフスタイルの多様化等、社会構造の変化に対応して、抜本的に見直す必要がある。人的控除については、累次の改正で複雑化しているため整理・合理化し、基本的な人的控除に集約するよう努力すべきである。 給与所得控除については、制度本来の趣旨である必要経費の概算控除としては、その水準が高すぎるとの指摘もあり、特定支出控除の拡大と併せて見直す必要がある。
3. 少子化対策
人口減少社会に突入したわが国にとって、少子化対策は国が基本政策として取り組むべき重要な課題である。政府は本年度から、新しい子育て支援制度を法制化し、中学校卒業までの子どもに1人当たり月額13,000円を支給している。 少子化対策は、
保育所の充実など本来は社会政策による施策の充実が重要となるが、一方で税制面からの配慮も不可欠である。例えば、児童に対する税額控除制度を導入し、子供が多くなるほど税負担が軽減される制度の創設を求める。さらには、フランスで実施されているN分N乗方式(子どもの数が多くなるほど所得税が減税される仕組み)の導入も積極的に検討すべきである。
4. 金融所得一体課税
所得税の10種類の所得区分は現在の経済取引に適合しているとは言えない状況にあ
る。このため、統合・簡素化や金融商品・取引間の損益通算による一体課税などが望ましい。平成20年度税制改正で損益通算の特例が一部実施されたが、まだ不十分である。
経済活性化の観点からも金融所得の一体課税は実施すべきである。
5.納税者番号制度
納税者番号制度については、最近、社会保障番号との関係整理を含め、政府部内でも議論が活発化している。電子商取引の普及、金融商品の多様化、国際化が進む中での資
産移動の把握、金融所得一体課税での損益通算の際の適正な執行、医療・年金等社会保障制度との一元管理、さらには給付付き税額控除制度の導入に向けた検討などを背景に、
導入の必要性が求められている。こうした点から、制度の創設・維持にかかるコスト、プライバシー保護等のセキュリティー確保のための法整備等の前提条件を明確にした上で、納税者の利便性も考え、税務面のみならず社会保障分野にも活用する観点から、
制度の早期導入に向けて早急かつ充分に検討すべきである。
第三 相続税制について
1. 相続税
相続税については、格差是正の観点から、平成23年度税制改正で相続税の課税ベース、
税率構造の見直し等課税強化を目指す方針が示されている。また、課税方式についても昭和33年以来続けられてきた法定相続人課税方式から遺産課税方式へ変更し、税率構造はもとより、基礎控除や非課税・軽減措置等について大幅な見直しが予想される。だが、国際的に見ても相続税の負担率は主要国と同一水準であり、負担強化については納得できない。このため、現行水準を維持し、これ以上の課税強化とならないよう求める。
2. 贈与税
贈与税については、基礎控除とは別枠で、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置が平成22年度税制改正で講じられた。しかし、この措置は平成23年末までの時限立法となっている。さらに、個人資産の世代間移転という観点から見ると、極めて対象が限定されている。このため、贈与税については、相続税の見直しと併せて、総合的な見地から、そのあり方再検討するよう求める。
3. 相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は、20歳以上の子が65歳以上の親から受ける贈与(非課税枠2,500万円)について、贈与時に軽減された贈与税を納付し、相続時に相続税で精算することになっている。この制度については、非課税枠の拡大と65歳から60歳への年齢制限の引き下げを求める。
第四 事業承継税制について
わが国の中小企業は、地域経済の活性化や雇用にも大きく貢献している。その中小企業が、相続税負担が主たる原因で、事業承継ができなくなるとすると、地域経済はもとより日本経済にとっても大きな損失である。こうした状況を踏まえ、法人会では長年にわたり欧米並みの「事業承継税制の確立」を訴え続けてきたところである。 事業承継税制について、欧米諸国の実情を見ると、相続税体系は多用であるが、事業承継税制を優先させるとの考え方で一致している。さらに、各種特例や優遇措置が整備されている。
一方、わが国では、事業後継者を対象にした相続税および贈与税の納税猶予制度が平成21年度税制改正で創設されたものの、事業用資産を一般資産と区分し、事業用資産の課税を軽減あるいは控除する欧米の制度に比べると内容、要件等が不十分であり、本格的な事業承継税制と呼べるものではない。 特に、自社株の課税価格の80%に対応する相続税を納税猶予する制度については、①原則として中小企業基本法で定める中小企業が対象
となること、②事前に経済産業大臣の認定、適用後に経済産業大臣、税務署長への報告等手続きが煩雑なこと、③5年間、雇用(厚生年金および健康保険加入者をベース)の8割以上を維持すること、④原則として死亡時まで株式保有しないと納税猶予とならない等、厳しい条件が課されている。贈与税の納税猶予制度についてもほぼ同様である。 このため、事業承継税制を利用できるケースは限定的なものにならざるを得ず、制度導入の趣旨が生かされない恐れがある。ついては、適用要件の緩和と欧米並みの本格的な事業承継制度の確立を今後も引き続き最重要課題として求めていくこととする。 このほか、親族外承継も重要な課題であり、税制面を含めて所要の措置を検討すべきである。
第五 消費税制について
1. 消費税率引き上げの条件
消費税は、消費一般に広く公平に負担を求めるものであり、少子・高齢化による財政需要の拡大などを考慮すると、消費税率を引き上げざるを得ないものと認識する。ただし、同時に行財政改革の徹底、歳出の削減・合理化などを行うべきであり、構造改革の進展や景気情勢などについても配慮すべきであることは言うまでもない。 税制改革の中で、消費増税のみをクローズアップすることは適当でなく、厳しい歳出・歳入の見直しの中で、その必要性が確認されることが重要である。特に、消費税については、今後の国民の義務として税のあり方、福祉社会の中で受益と負担のあり方について国民のコンセンサスを構築し、かつ具体的な消費税制度のあり方や運用等について所要の整備を行うなど、国民の不安を可能な限り少なくした上で、税率の引き上げを行うべきである。
2.滞納防止
消費税は本来、預り金的性格を持つ税金であるため、滞納防止策として中間申告や
e-Taxの普及等、制度、執行面で一層充実した対策が望まれる。
第六 地方税制の見直しについて
1. 固定資産税の軽減
固定資産税については、商業地を中心に実効税率が上昇を続け、都市部において重税感が高まっている。そこで、都市計画税と併せて制度の見直しと負担軽減を求める。
宅地と事業用地については、資産の収益力に着目した収益還元価格で評価する方式に改めるよう求める。また、事業用地については、居住用宅地に準じた負担軽減措置を設けるべきである。 居住用家屋については、再建築価格方式でなく、家屋の経過年数に応じた
評価方法に改めるべきである。 土地の評価体制については、国土交通省、総務省、国税庁が各省庁の目的に応じた評価を行っているが、行政の効率化の観点から評価体制の一元化を行うべきである。
2. 事業所税の廃止
事業所税については、最近、市町村合併の推進で課税対象が拡大しているが、本来、固定資産税との二重課税的な性格を持っていることから、速やかに廃止すべきである。
3. 申告納税の合理化
行財政改革や納税者利便性等の観点から、国税と課税対象を同じくする法人事業税、法人・個人の道府県民税や市町村民税について、地方消費税の執行をモデルとして、納税手続きの一層の合理化を図る必要がある。
4. 超過課税・法定外目的税
市町村民税の超過課税は主として法人を対象に行っており、その課税目的は必ずしもあきらかでない。課税の公平原則にも反するもので、速やかに廃止すべきである。
また、法定外目的税については、環境対策から導入される事例が多いが、独自課税の実施にあたっては、税の公平・中立の観点から法人企業に対する安易な課税は避けるべきである。
第七 環境税制について
環境問題については、地球温暖化対策として各種の構想や提案が行われている。
しかし、具体的に税制面でどう対応するかについては、政府部内で結論が出ていない。
このため、当面は国内外の議論を注視し、環境政策との調和、石油税等、既存の税制との調整を図りつつ、幅広い観点から積極的に検討するよう求めたい。また、これに関連して、
21世紀の企業人は環境意識を持って経営を行うべきことは、言うまでもない。
― 以上、税制改正に関する提言の基本事項 ―
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| 最終更新 2011年 8月 24日(水曜日) 08:13 |